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咽頭がん

上咽頭がん中咽頭がん下咽頭がん

【1】上咽頭がんとは

上咽頭がん

上咽頭は解剖学的に鼻腔(びくう)の後方に位置しており、口を開けた時に見える口蓋垂(こうがいすい)、および扁桃腺(へんとうせん:正しくは口蓋扁桃(こうがいへんとう))の上後方の部位をさし、頭蓋底の骨を境として脳と接しています。この部位に発生するもので耳慣れたものはアデノイド(腺様増殖症(しゅようぞうしょくしょう))です。アデノイドは咽頭扁桃という組織が増殖するものですが、腫瘍性のものではありません。上咽頭がんはその周辺に発生する悪性腫瘍です。上咽頭の側壁には、耳管(びかん)開口部と呼ばれる中耳(ちゅうじ)と連絡する管の出口があります。このため、上咽頭がんでは鼻症状のみでなく、耳に関連した症状も出現します。

上咽頭がんは、わが国ではまれな疾患です。男女比は3:1で男性に多く、年齢的には40~70歳代に多発していますが、10~30歳代にもみられます。組織学的には、ほとんどの場合が低分化型扁平上皮がん(ていぶんかがたへんぺいじょうひがん)で、悪性リンパ腫がこれに次いでいます。

【2】症状

上咽頭がんの症状としては、初期にはほとんどが無症状ですが、腫瘍が大きくなると耳管を狭窄するために片側性の耳閉塞感、軽度難聴のような感覚、すなわち中耳炎(ちゅうじえん)のような症状になります。頸部(けいぶ)リンパ節と呼ばれる首のリンパ節の腫脹(しゅちょう)があげられます。この腫脹は上咽頭がんの頸部リンパ節転移によるもので、多くの場合、耳介(じかい)の下斜め後方にあるリンパ節(副神経リンパ節)が腫脹しますが、病気が進むと他の頸部リンパ節も腫脹してきます。上咽頭がんは、頸部リンパ節に転移することが多く、ほとんどの症例に認められています。頸部リンパ節の腫脹のみを主訴として外科や内科を受診し、なかなか診断がつかず、腫脹した頸部リンパ節の生検の結果、はじめて頭頸科(耳鼻咽喉科)で上咽頭がんの診断が確定することもあります。

上咽頭のがんそのものによる症状としては、鼻症状、耳症状および脳神経症状があげられます。鼻症状は鼻づまりと鼻出血が主なものです。この時の鼻出血は血液のみではなく、鼻をかむと鼻汁に血液が混じり、これが継続するというものです。耳症状は耳管開口部が、がんにより閉塞して耳のつまったような感じ、難聴(多くは片側性)などの症状をおこします。脳神経症状は、がんが脳神経を圧迫、あるいは直接侵すことにより発症します。どの脳神経も侵される可能性がありますが、外転神経障害のため物が二重に見えたりする他、まれに視神経の障害による視力障害や、三叉神経が圧迫されたり侵されることによる疼痛が認められます。

上咽頭がんは低分化型扁平上皮がんが多いため、他の頭頸部がんよりも遠隔転移が多く認められます。肺・骨・肝臓が遠隔転移の最も多い部位です。肺転移による胸部レントゲン写真上の異常陰影、骨転移による骨の痛み、肝転移による腹部超音波検査での異常像などによって遠隔転移が先に発見されることもあります。

【3】診断

視診と組織診断により診断を確定します。がんの深部への拡がり、骨破壊の程度などを把握するためにCTやMRIを中心とした画像診断を行います。視診は、口腔内から後鼻鏡で呼吸をしながら観察する方法と、鼻からファイバースコープを挿入して直接観察する方法があります。

組織診断は、まず口腔、鼻腔、上咽頭にスプレーで局所麻酔剤を塗布し、咽頭反射と表面の疼痛を除去します。次に鼻腔からネラトンカテーテルといわれる細いチューブを挿入して軟口蓋(なんこうがい)を前方へ引出し、視野を広くしてから鉗子(かんし)で腫瘍の一部を採取します。ときに頸部リンパ節のみにがんが認められ、上咽頭に変化のない場合でも、上咽頭が原発巣と疑われる時には、正常と思われる部位の組織をとることがあります。

【4】病期(ステージ)

原発巣を4段階に分け、頸部リンパ節転移も4段階に分けて、がんの進展範囲により病期を決定します。前述のように上咽頭がんは早期に特徴的な症状が出にくいので、初診時すでに原発巣が進行していたり、頸部リンパ節転移を認めたりするケースの頻度が高くなっています。原発巣が頭蓋底に進展し、脳神経症状が出現すると最も進んだ病期となります。
上咽頭がんは次のように分類されます(他の頭頸部がんと少し異なります)。

I期 がんが上咽頭にとどまっている状態。
II期

(A)がんが中咽頭(咽頭後壁、口蓋扁桃、軟口蓋など)や鼻腔などの隣の部位に拡がっているがリンパ節転移がない、咽頭側方への拡がりがあるか鎖骨上のリンパ節以外の片側のリンパ節転移がある。

(B)がんが上咽頭にとどまっていてもがんと同じ側の6cm以下の頸部リンパ節転移がある、あるいは咽頭側方から頭蓋底付近へのがんの浸潤がある状態。

III期 がんが骨組織や副鼻腔に拡がっているか、両側の6cm以下の頸部リンパ節転移がある状態。
IV期 がんがさらに広範に浸潤し、頭の中(頭蓋内)、脳神経、眼窩、下咽頭などへ拡がる、頸部リンパ節転移が6cmを超えるか、転移が鎖骨上までおよぶ、遠隔転移を認めるといった状態。

【5】治療

上咽頭がんの治療は、原発巣、頸部リンパ節転移に基づくどの病期でも放射線療法が主体となります。頸部リンパ節転移を伴わない早期がんでは 60Gy~70Gyの根治的放射線療法を施行することが多いです。頸部リンパ節転移に関しても通常、多発性、両側性で切除(頸部郭清術)を施行しても再発する可能性が高いことから放射線療法が優先されます。放射線療法では、消失しないリンパ節転移に対してはリンパ節を切除するリンパ節郭清(かくせい)術を施行することもあります。

抗がん剤による化学療法は、遠隔転移を認める場合や放射線療法の補助治療として用いることがあります。放射線単独では進行がんを制御するのが困難なためです。放射線の補助療法としては、放射線療法の前や、放射線療法と同時、もしくは放射線療法終了後に化学療法を行うことがあります。

【6】治療による副作用と生活

放射線療法による副作用が主なものとなります。放射線治療中は、個人差はあるものの、口腔・咽頭粘膜炎、味覚の消失、口腔・咽頭の乾燥感などに悩まされます。これらの副作用は治療が終了すると改善しますが、口腔・咽頭乾燥感のみは後々まで症状が残ります。これは、放射線療法により唾液腺が萎縮し、唾液の分泌量が減るためにおこるものです。また、歯に対する障害や、第二次性徴前の若年者の場合は脳下垂体の障害による第二次性徴への影響が問題となります。

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【1】はじめに

中咽頭がん
1.中咽頭の位置と分類

咽頭は、鼻や口の奥にあり、食道や喉頭(こうとう)の上に位置します。その咽頭はさらに上・中・下に細かく分類されます。中咽頭は口を大きく開けた時、口の奥に見える場所で、扁桃腺(へんとうせん:口蓋扁桃(こうがいへんとう))や舌の付け根(舌根(ぜつこん))に生じやすく、多くは扁平上皮がん(へんぺいじょうひがん)といわれるタイプのがんです。

2.中咽頭の役割

中咽頭は、食物や空気の通路ですが、食物を飲み込む嚥下(えんげ)や言葉を話す構音(こうおん)をうまく行うための重要な働きをしています。

3.頻度と発症原因

頭頸部(とうけいぶ:主として耳鼻咽喉科が診療する領域)自体、がんの発生頻度は少なくがん全体の約5%といわれています。 この領域にできたがんを頭頸部がんといいます。中咽頭がんはその中に含まれますが、その頻度はさらに少なく、 頭頸部がんの約10%にすぎません。

中咽頭には、扁平上皮がんの他に悪性リンパ腫、 粘膜下に存在する附属腺から発生する腺がんなどがみられますが、最も多いのは扁平上皮がんです。強い酒や、たばこなどが、中咽頭がん発症の誘因のひとつではないかと考えられています。

さらに頭頸部の他の領域、すなわち口腔、下咽頭、喉頭などに発生するがんも同様で、 長期の飲酒歴や喫煙歴のある人は頭頸部がんに注意する必要があります。

【2】組織分類と病期(ステージ)分類

他の頭頸部がんと同様、中咽頭がんのほとんどは扁平上皮がんという種類のがんです。
その他、まれですが、粘膜下に存在する小唾液腺(しょうだえきせん)から発生する各種の腺がんもあります。 また、中咽頭は扁桃をはじめリンパ組織に富んでおり、悪性リンパ腫が多発します。 これらがんの種類により治療法、予後(がんが治る見込み)が異なってきます。

がんは、一般に拡がりぐあいに応じて4段階の進展度(T分類)に分けられます。 中咽頭では2cm以下の大きさをT1、2cmを越え4cm以下の大きさの場合をT2、4cmを越えた場合をT3、 さらに周囲の筋、骨、喉頭などへ進展した場合をT4と分類します。

また、中咽頭がんは頸部のリンパ節に転移しやすく、 そのリンパ節転移の状態と中咽頭のがんの進展度を組み合わせて病期(がんの進みぐあい)をI~IV期まで分類し、 治療法を選択したり予後の見通しをたてる場合の参考としたりします。

I期 腫瘍がT1の大きさで頸部リンパ節転移がない場合。
II期 腫瘍がT2の大きさで頸部リンパ節転移がない場合。
III期 腫瘍がT1またはT2の大きさで、同側の頸部に3cm以下のリンパ節転移が1個のみ認められる場合。
腫瘍がT3の大きさで頸部リンパ節転移がないかあるいは同側の頸部に3cm以下のリンパ節転移が1個のみ認められる場合。
IV期 腫瘍がT4になった場合。
頸部リンパ節転移が2個以上認められる、あるいは3cmを超える大きさになる、あるいは反対側の頸部に出現した場合。
遠隔転移(腫瘍が頸部以外の離れた場所に転移すること)が認められた場合。

【3】症状

中咽頭がんの初期症状は、食物を飲み込むときの、のどの異物感・違和感、しみる感じ、軽い痛みなどです。 やがてのどの痛みや飲み込みにくさ、しゃべりにくさなどが少しずつ強くなり、 さらに進行すると耐えられない痛み、出血、開口障害、嚥下障害、 呼吸困難など生命に危険をおよぼす症状が出現してきます。
時には、元の、がんそのものによる症状がほとんどなく、 頸部へ転移したリンパ節の腫れ(はれ)だけが唯一の初発症状となることもあり、注意が必要です。

中咽頭は口を開けて見えるところが多いのですが、舌根は直接見えない場所で指でも触れにくい場所です。 そのため舌根がんを早期発見するためには、他の頭頸部がんにも共通することですが、 食べ物を飲み込む時に違和感やしみる感じがある場合に、早めに耳鼻咽喉科もしくは頭頸科を受診して、 のどの奥を診てもらうことが大切です。

また、頸部のリンパ節がはれてきた場合、がん(特に頭頸部がん)の転移の可能性もありますので、 中咽頭がんをはじめとする頭頸部がんができていないかどうか、耳鼻咽喉科(頭頸科)で詳しく検査してもらうことも大切です。

【4】診断

原発巣を4段階に分け、頸部リンパ節転移も4段階に分けて、がんの進展範囲により病期を決定します。前述のように上咽頭がんは早期に特徴的な症状が出にくいので、初診時すでに原発巣が進行していたり、頸部リンパ節転移を認めたりするケースの頻度が高くなっています。原発巣が頭蓋底に進展し、脳神経症状が出現すると最も進んだ病期となります。
上咽頭がんは次のように分類されます(他の頭頸部がんと少し異なります)。

1.視診

まず、口から光を入れて中咽頭の腫瘍の有無を確かめますが、直接見えない場合には細い内視鏡を鼻から挿入して観察します。

2.触診

腫瘍の大きさ、固さ、深部への拡がりなどを調べるため、指を入れて直接腫瘍を触れます。
さらに小さなリンパ節も見逃さないように、頸部を丁寧に触診していきます。

3.病理検査

腫瘍の一部を採取して、がんかどうか、さらにはがん細胞の種類を調べます。

4.画像検査

腫瘍の進展範囲、リンパ節転移の有無などを調べるためMRI、CT、X線透視、超音波(エコー)などの画像検査を行います。
また、喉にがんがある場合は、食道がんも生じやすいので胃ファイバースコープでチェックを受けることもあります。肺のCTやアイソトープ検査も、転移の検索目的でおこなわれる場合があります。

【5】治療

いろいろな診断法や検査により、病期とがんの種類を決定し、それに応じた治療法を選択します。 最も多い扁平上皮がんに対する治療法としては、外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法などがあります。 以前は放射線治療が主流でしたが、最近では技術の向上により、積極的に外科療法を行う場合も増えてきました。 抗がん剤による化学療法は補助的治療として行われることがあります。以下は、扁平上皮がんに対する治療法です。

1.外科療法

病気の部位、進行の具合により手術法が異なります。小さな腫瘍の場合、 切除後に直接傷を縫い合わせて閉じることができますが、大きな腫瘍の場合、 切除後の大きな欠損部に他の場所から採取した皮膚や筋肉を移植して再建し、閉じる必要があります。この際、術後の咽頭の機能低下を防ぎ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を向上させるために、さまざまな再建外科の技術が駆使されますが、手術には長い時間が必要です。

軟口蓋の切除後には、声が鼻に抜けて不明瞭な言葉にならないよう、また食物が鼻に逆流しないよう鼻と口の境界をつけるための組織を移植します。
舌根部の広範な切除後はひどい誤嚥をおこすため、時には喉頭を同時に切除する必要があります。 しかし、最近では舌根部に対する再建手術の工夫により、 喉頭を温存(おんぞん:切除しないで残すこと)できる場合が多くなってきました。

一方、中咽頭がんは高い頻度で頸部のリンパ節に転移します。そのため、ある程度進行した場合は、 中咽頭のがんとともに頸部のリンパ節を切除します(頸部郭清術:けいぶかくせいじゅつ)。この場合、手術後、肩や首の凝りに悩まされる場合もあります。
なお、腺がんは外科療法の対象となります。

2.放射線療法

放射線単独で治療する場合は、I、II期といった比較的早期のがんが対象となります。 治癒する確率は外科療法とほぼ同様です。がんの治癒が期待できる治療法で、外科療法とは違い、 形態が温存でき機能障害も少ないので、治療後も治療前と同じような生活をしていくことができます。 外照射で治療する場合は、6~7週の治療期間が必要です。

治療中は人によって程度は異なりますが、 咽頭の粘膜炎、味覚の変化、唾液分泌低下による口の乾きなどの症状が出ますが、 通院での治療が十分に可能です。唾液分泌低下は長期間続くことがあります。 最近の放射線治療の進歩でどちらか片方の耳下腺には放射線を照射しなくても、 がん組織には十分量の放射線照射ができるようになり、従来よりは強い口の乾きはおこさずに治療ができるようになってきています。
放射線治療中に喫煙を続けていた人の治癒率は、喫煙していない人と比べ低いといわれているので、 放射線治療開始前までには喫煙の習慣をやめることが大切です。

III、IV期のがんは、放射線単独の治療で治癒する確率は低く、従来から外科療法が治療の主体です。 放射線治療はがんを小さくし、手術をしやすくするために手術の前に行われたり、 手術をしてもきちんととりきれないでがんが残存していることが疑われた場合などに行われたりします。

外科療法ができないほど進行している場合は、放射線治療が主体で行われています。 治癒の可能性は少ないですが、がんによる痛み、出血、嚥下障害などの症状を和らげることができます。 まだ研究段階ですが、放射線と抗がん剤を合わせた治療も試みられています。 この治療法は、進行はしているけれど外科療法が行える状態のがんにも、形態および機能の温存を目的に試みられています。

3.抗がん剤による化学療法

通常の中咽頭がんに対しては、化学療法のみ単独で行われることはほとんどありませんが、 外科療法や放射線療法と組み合わせることによって、治癒率の向上をめざすさまざまな試みがなされています。ただし、中咽頭に好発する悪性リンパ腫に対しては非常に有効な治療法です。

【6】治療後の注意点

中咽頭がんの特徴に重複がんの発生率が20~30%と非常に高いことがあげられます。 つまり、他の領域にもがんが生じやすいということです。中咽頭以外に出現しやすい場所としては、他の頭頸部領域、食道、胃などです。
治療後にはそれまでの悪習慣(大量の飲酒、喫煙)を断ち切り、バランスのとれた栄養摂取を心がけるとともに、 積極的にがん検診を受けて第2、第3のがんの発生を予防し、また早期発見につとめることが大切です。

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【1】下咽頭がんとは

上咽頭がん

人間の「のど」は、咽頭と喉頭の2つの部位からできています。咽頭は鼻に近いほうから上咽頭、中咽頭、下咽頭と下がっていき、食道に続いていき、下咽頭はのどの一番底の部分で、食道との移行部になります。

下咽頭がんの原因はまだよくわかっていませんが、喫煙や飲酒との因果関係が深いといわれています。ヘビースモーカーで大酒飲みの方ほど下咽頭がんにかかりやすく、下咽頭がんの「高危険群」といわれています。男性は女性の4~5倍の頻度で発生し、年齢は50~60歳代に多く、全体の60%以上はこの年代に発症します。ただ、下咽頭がんの発症に関してひとつ例外的なことは、下咽頭の輪状後部という部位にできるがんは、喫煙や飲酒に関係なく貧血(特に鉄欠乏性貧血)をもつ女性に多く発症するということです。

下咽頭がんも他のがんと同じように、早い時期に発見されれば手術や放射線療法により完全に治ります。しかし、下咽頭はがんがかなり大きくならないと症状が出ない部位であり、また頸部のリンパ節に転移しやすい特徴をもっています。そのため、下咽頭がんの60%以上は、初診時にはすでに喉頭に浸潤(しんじゅん:がんが周囲に拡がること)していたり、頸部リンパ節転移を伴ったりする進行がんです。進行がんの治療の主体は手術となり、手術に放射線や抗がん剤を組み合わせることもあります。手術は声帯を含め喉頭を全部とらざるを得ない場合がほとんどですが、最近はがんの浸潤範囲により、声帯を一部残すこともできるようになってきました。

下咽頭がんが発見された方の25~30%に、食道がん(転移ではなく全く別のがん)が見つかっており、これを重複がん(同じ方に2つ以上の別ながんができること)といいます。これは食道がんの発生も下咽頭がんと同様に、飲酒や喫煙と深い関係があることが原因と考えられています。
特にもともとはお酒が弱い体質なのに、鍛えて強くなった方に下咽頭と食道の重複がんが多いことが最近の研究でわかってきました。そのため、下咽頭がんは治療前に上部消化管内視鏡(胃カメラ)の検査が必須となります。食道がんは下咽頭がんと同時に手術したり、下咽頭がんとは別に内視鏡(胃カメラ)で切除したりします。下咽頭がんと食道がんのそれぞれの病気の進みぐあいによって、手術の方法や治療法が異なってきます。

【2】症状

1.嚥下(えんげ:飲み込むこと)時の異物感

下咽頭は食物の通り道なので、内腔に腫瘍が突出してくると、嚥下時に何かひっかかる感じやスッキリ飲み込めない感じが持続します。また、潰瘍(かいよう)型の腫瘍では焼けつくような痛みが出てくることもあります。

2.耳への放散痛

1.の症状と関連して嚥下時に耳の奥に鋭い痛みが走り、中耳炎にでもなったのではないかと思うような症状がおこります。これは下咽頭と耳をつなぐ神経の経路があるためで、下咽頭がんや進行した喉頭がんに特徴的な症状です。

3.声がれ

風邪でもないのに、声がかれる症状が続き、徐々に進行します。これはがんが喉頭に浸潤したり、声帯を動かす神経(反回神経)をがんが麻痺させたりするために出てきます。また、さらに進行すると空気の通り道が狭まるために、ゼーゼーして息苦しくなります。

4.頸腫(けいしゅ:頸部のしこり)

下咽頭がんは、頸部のリンパ節(風邪の時や扁桃腺がはれると首に触れるグリグリのこと)に転移しやすく、約60%の人が初診時にはすでに転移しています。頸腫はこのリンパ節のはれです。のどの症状は全くなく、頸腫が唯一の自覚症状であることもあります。顎(あご)の骨の下方から鎖骨までの間で、複数個はれることも両側はれることもまれではありません。はじめは痛みもなく徐々に大きくなり、急激に大きくなることもあります。
これらの症状はいずれも徐々に進行増悪するのが特徴で、一度出た症状が治療なしに消失することはほとんどありません。

【3】診断

下咽頭は構造上観察しづらい部位ですが、間接喉頭鏡という鏡を使ったり喉頭内視鏡(ファイバースコープ)を使ったりして、のどの奥をのぞきます。また、頸部を丹念に触ること(触診)によって、リンパ節転移の有無や、がんが周囲の組織にどの程度浸潤しているかを診断します。

診断をつけるための検査は大別して2種類あり、それががんかどうか決めるための検査と、それががんならばどの程度拡がっているのかを知るための検査です。

がんの治療方針を決める際の最も重要な病理検査のために、間接喉頭鏡や内視鏡を使ってがんのほんの一部を切除し、顕微鏡下でがんの細胞か否かを観察します。これを生検といいます。
また治療の際に、がんの浸潤がどこまでおよんでいるかが重要なポイントになるので、補助検査としてレントゲン(バリウムによる透視)やMRI、CTを行います。食道がんとの合併が多いので、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を施行して重複がんがないかどうかチェックします。進行下咽頭がんは、他の臓器に転移する(遠隔転移)こともしばしばあるため、胸部レントゲンや、転移が疑われる臓器のCTやMRIを行います。また、治療の方法を選択する上で心電図や呼吸機能などの全身状態の検査も行います。

【4】病期(ステージ)

下咽頭がんと診断がついた場合、そのがん細胞が周囲組織にどの程度拡がっているのか、頸部のリンパ節への転移があるのか、また肺などの他の臓器に転移があるのかについての検査が行われます。この検査でわかったがん細胞の拡がりの程度を病期(ステージ)といい、治療計画を立てる上で非常に重要です。下咽頭がんの場合、次のように分類します。
I期とII期をあわせて早期がん、III期とIV期をあわせて進行がんと呼びます。

I期 腫瘍がT1の大きさで頸部リンパ節転移がない場合。
II期 腫瘍がT2の大きさで頸部リンパ節転移がない場合。
III期 腫瘍がT1またはT2の大きさで、同側の頸部に3cm以下のリンパ節転移が1個のみ認められる場合。
腫瘍がT3の大きさで頸部リンパ節転移がないかあるいは同側の頸部に3cm以下のリンパ節転移が1個のみ認められる場合。
IV期 腫瘍がT4になった場合。
頸部リンパ節転移が2個以上認められる、あるいは3cmを超える大きさになる、あるいは反対側の頸部に出現した場合。
遠隔転移(腫瘍が頸部以外の離れた場所に転移すること)が認められた場合。

【5】治療

下咽頭がんは下咽頭粘膜の扁平上皮という細胞から発生します(扁平上皮がんといいます)。
治療方法は、大きく分けて外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法の3種類があります。どの方法を選ぶか、単独かいくつかを組み合わせて集学的にするかは、がんの発生した部位、がんの細胞の種類、病期、一般的な健康状態(持病や現在患っている病気、心臓、肺、肝臓などの重要な臓器の現在の機能など)や年齢によって決まります。
また、治療法にはそれぞれ長所、短所があるので、担当医から充分な説明を受け理解した上で、最終的には自分自身で決めることになります。今後の生活を決める治療法ですから、理解できないことがあれば何回でも担当医に聞いて下さい。担当医との十分な話し合いは治療を円滑に行う上で大変重要です。

1.外科療法

下咽頭にできたがんや、頸部リンパ節を切除するために行います。初診時60%以上が進行がんである下咽頭がんでは、放射線や抗がん剤だけで完治する数は非常に少ないので、現時点において手術が下咽頭がん治療の中心となっています。下咽頭に限らず、がんの手術は、一般にがんを中心に周囲に正常組織を十分つけ、がんを正常組織で包み込むように切りとるのが大原則です。それが「がんは大きくとらなければいけない」とよくいわれる理由ですが、下咽頭の場合、話したり、食物を飲み込んだりできなくなるので、大きく切除するほど機能が悪くなります。また、機能を残そうとすると小さい範囲しか切除できません。

(1)下咽頭・喉頭・頸部食道切除術
現在最もよく行われている手術で、喉頭および下咽頭の全部、頸部食道の一部または全部を切除します。下咽頭がんが喉頭に深く浸潤している場合に行います。切除後の欠損部は、腸の一部または皮膚を移植して食道を再建しますので、食事は今までどおりできます。しかし、喉頭は全部切除するので発声はできず、気管孔と呼ばれる呼吸するための穴が一生頸部に開いたままとなります。術後の発声は、人工喉頭などの器具を使ったり、トレ-ニングで食道発声を習得したりすることによって、意思伝達をすることになります。

(2)下咽頭・喉頭・全食道抜去術
下咽頭、喉頭の切除については、(1)と同様、食道を全摘除します。切除後は、胃を持ち上げて咽頭の粘膜と縫合(ほうごう)します。食道にもがんがあり、手術が必要な場合や、何らかの理由で腸の移植ができない場合に行います。発声や気管孔は(1)と同じです。

(3)下咽頭部分切除術
喉頭の一部または全部を保存し、下咽頭の一部を切除する方法で、がんが喉頭に浸潤していないか、浸潤していても軽度の場合に行います。切除後は欠損の大きさによって下咽頭の粘膜を一次的に縫い縮めたり、腸や腕の皮膚を移植したりして再建します。術後発声は可能で、気管孔も必要ない場合がほとんどです。この術式は現在最も力を入れている方法ですが、すべての下咽頭がんにできるわけではなく、がんの拡がりぐあいや年齢、持病の有無などで、この手術が行えるかどうかが決まります。

(4)頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)
下咽頭がんが頸部のリンパ節に転移していたり、転移している可能性が高い場合に行う手術で、上記の下咽頭に対する(1)、(2)、(3)の手術と同時に行ったり、下咽頭への放射線治療後、頸部転移に対して単独で施行したりします。下咽頭がんから頸部リンパ節への転移は、がん細胞が頸部のリンパ管を通ってリンパ節へ到達しておこるので、リンパ節のみ切除してもあまり意味がなく、リンパ管とリンパ節(リンパ系)を根こそぎ切除してはじめて意味があります。リンパ系は主に頸部の皮膚裏面の脂肪組織の中に含まれるので、頸部郭清術はその脂肪組織を切除することになります。脂肪組織の中には重要な血管や神経もありますので、それらを傷つけないように脂肪組織だけを切除するのが理想ですが、転移リンパ節の大きさや周囲への浸潤の程度によっては、神経や血管を残すことができない場合もしばしばあります。

2.放射線療法

下咽頭がんに対する放射線治療は、放射線単独で行う場合と、手術と組み合わせて行う場合があります。放射線単独での治療は、頸部にリンパ節転移が明らかでない比較的早期の場合(I、II期)やIII、IV期でも手術ができない場合に行います。また、抗がん剤と組み合わせて行うこともあります。
この方法でがんが治癒すると、喉頭や咽頭の切除の必要がなく、発声や飲み込みの不自由があまりない発病前と同様の生活が可能です。手術と組み合わせた放射線治療は、手術を行う前にがんを小さくして手術を行いやすくするために行ったり、手術が終わってから再発を予防したりするために行います。

放射線単独で行う期間は、通常6~7週で週5回(月~金)です。4~5週行ったのち、照射範囲を縮小するのが一般的です。触診やCT、MRIなどで頸部、咽頭周囲のリンパ節転移がないと診断されても、小さなリンパ節転移が存在する可能性があるので、咽頭上部から下方は鎖骨部までの広い範囲を治療します。この広い範囲の治療を4~5週行い、その後は治療前にがんの存在がはっきりとわかっていた部位に小さく絞り込みます。治療が終了してもがんが残ったり、見た目にはいったん消失してしまったがんが再び大きくなったりした場合は、手術が必要になることもあります。

手術前に行う場合は、上記の広い範囲に通常4~5週行い、終了後1ヶ月までには手術をします。手術でとりきれなかった可能性がある場合には、手術後に放射線治療を行います。治療範囲は上記の広い範囲に通常5~6週行います。がんが残っている可能性が特に高い部位に範囲を限って治療することもあります。

副作用には疲れる、食欲がなくなるといった全身の症状が出ることもありますが、主な副作用は治療される部位におこってきます。副作用が出てくる時期は、放射線治療開始より3ヶ月以内のもの(急性期)と3ヶ月以降に出現するもの(遅発性)があります。急性期の副作用としては、口腔、咽頭、喉頭の粘膜炎による飲み込みにくさ、飲み込む時の痛み、声がかれるといった症状が出てきます。通常、治療を開始してから2週間前後から症状が出てきます。唾液を分泌する唾液腺の機能が低下し、口が乾いたり、味覚が変わったりもします。しだいに普通の食事をするのがつらくなってきて、刺激の少ない物、柔らかい物や液状の栄養剤の摂取が必要になることもあります。皮膚には日焼けのような変化がおこってきます。発赤、色素沈着、乾燥、皮膚剥離(ひふはくり)といった変化がおこってきます。かゆみや痛みを伴うこともあります。副作用がおこったら症状を軽くする薬を服用したりしますが、完全には症状がとれないことがあります。粘膜炎の症状は治療が終わるとよくなりますが、口の乾きや、味覚の変化は続くこともあります。食事摂取量が減ると体重減少もみられます。放射線治療を行っている間は、入院が必要になる副作用が出ることもありますが、多くの場合は外来通院での治療が十分に可能です。

治療が終了してからの遅発性の副作用には、頸部の皮膚が硬くなったり、口の乾きが続いたりということがあります。甲状腺機能低下症も、ときにはおこることもありますが、症状が出ることはほとんどありません。非常にまれですが、咽頭・喉頭の炎症が続いて呼吸が苦しくなってしまうことがあります。その場合は、がんは治っていても咽頭・喉頭の切除が必要になることがあります。脊髄に多くの放射線が照射されると、脊髄症(身体・四肢の麻痺やしびれ)がおこることがあります。そのようなことにならないように、放射線照射の方法を工夫して脊髄への放射線量が少なくなるようにします。

3.抗がん剤による化学療法

現在下咽頭がんの治療において、どのような病期においても化学療法を単独で行うことはほとんどなく、外科療法や放射線療法と併用されます。化学療法は、静脈(まれに動脈)より抗がん剤を点滴で入れます。血液中に入った抗がん剤は、血流に乗って全身をめぐり、下咽頭のみならず外に拡がったがん細胞を殺すことができます。このことにより、外科療法や放射線療法が局所治療と呼ばれるのに対し、化学療法が全身治療と呼ばれるゆえんです。下咽頭がんの場合、使用する抗がん剤は通常2種類(シスプラチン、フルオロウラシル(5-FU))で、抗がん剤を投与する期間は1~2週間ですが、併用する治療によって若干異なります。この抗がん剤治療を3~4週ごとに繰り返します。下咽頭のがんが周囲臓器に深く浸潤している場合や、頸部リンパ節転移が両側性や多発性の進行がんに多く使われます。それはこのような進行がんは大きな手術をしても再発することが多く、何とか機能を温存して治療できないかという発想からきており、この場合には放射線を同時に併用することがほとんどです。また手術などで、局所治療後に時間がたって肺などに転移した場合(遠隔転移)、全身治療として化学療法を行うことがあります。
以上、治療法について概略を述べましたが、どの方法をどのように行うかは、同じ下咽頭がんでも病気の進みぐあいを含め、それぞれによって全く違います。一番適した治療法を、担当医との十分な話し合いのもとに決めることが重要です。

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